六一二年(推古一九年)、黄泉国の洞窟であらゆる邪念を身に宿した赤児が誕生した。“黄泉皇子”である―。六四五年、大王家と蘇我氏が権力の座をめぐって敵対する飛鳥の地は、不隠な空気に包まれていた。異能を持つ額田郎女は不吉な胸騒ぎを覚え、恋仲である大海人皇子の身を案じるあまり、生家を飛び出し板蓋宮を目指した。やがて中大兄皇子の愛を受けるようになる額田だが、彼の周辺に次々と起きる惨劇にある疑問を抱き始めた…。権力闘争のなかで浮かび上がる「呪咀を以て倭国を統べる」という伝承の黄泉皇子の存在。その秘密と正体とは。大化の改新を影で操っていた人物と真の目的は。さらに、飛鳥の地に埋もれているとてつもないものとは。渾身の力で書き下ろした異色の伝奇歴史推理。